アイリッシュのサスペンス傑作『幻の女』あらすじ、感想、解説

「夜は若く、彼も若かったが、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった」
薫り高い書き出しで始まる、”サスペンスの詩人”ウィリアム・アイリッシュの傑作『幻の女』のあらすじ、感想、解説です。

あらすじ

妻と喧嘩し、ただ一人町をさまよっていた男は、奇妙な帽子をかぶった女に出会った。

彼は気晴らしにその女を誘ってレストランで食事をし、カジノ座へ行き、酒を飲んで別れた。

そして帰ってみると、けんか別れをして家に残してきた妻が、彼のネクタイで絞殺されていた!

刻々と死刑執行の日が迫る中、彼のアリバイを証明すべく、”幻の女”を探す。

だが女は一向に現れず、更に一緒にいる姿をみているはずの人々までも女は見ていないと証言する!

一体何が起きているのか?女はなぜ姿を現さないのか?

☞こんな人に読んで欲しい

  • 時間を忘れてハラハラ・ドキドキに浸りたい人
  • どんでん返しの結末に騙されたい人
  • 殺人とかトリックとかのミステリはちょっと、と敬遠している人
  • スタイリッシュな都会の空気に浸りたい人

感想

小学生で「怪人二十面相」「少年探偵団」、ホームズの「まだらの紐」などの探偵小説を読み始め、以来40年以上にわたって海外、国内を問わず、3000冊以上のミステリ小説を読んできた私が、「文句なしのナンバーワン」と推す傑作。

1942年発刊ですから、既に発表から75年以上経っていますが、全く色褪せてないです。

?マークだらけの出だしから始まって、途中新たな展開がなくなった頃の絶望感、死刑執行に向かって加速する終盤、そして最後の最後でのどんでん返し。この構成も見事です!

臨場感溢れる美しい文章はまるで一流の映画を観ているかのような「サスペンスとロマン」に溢れています。

「サスペンスとロマン?おいおい」と思った方、まずは騙されたと思って本を手に取ってみて下さい。期待を裏切らない、むしろ、期待を大きく上回る読書体験ができること間違いありません。ネットではネタバレも見受けられるので、要注意です!

今回新訳で読み直しましたが、いやー、これはいい!
文章の読み易さに言葉の明瞭さが加わって、緊迫のサスペンスがより一層色鮮やかになった印象です。昔の映画がデジタル・リマスタリングで蘇ったような感じ、とでも言えばいいのでしょうか。

過去に読んだことのある方にもぜひ楽しんで頂きたいです。
オレンジのかぼちゃのような帽子、は、パンプキン、に代わられ、ますます”風変わり”さを増してます(笑)

解説

ウィリアム・アイリッシュは哀愁味溢れる美しい文体から”サスペンスの詩人”と呼ばれています。

コーネル・ウールリッチ名義で多くのサスペンス作品の名作・佳作を発表して、むしろアイリッシュ名義の作品の方が少ないのですが、アイリッシュ名義で書かれた本書が余りに有名なため、(特に日本では)ウィリアム・アイリッシュと呼ばれることが多いのです。

私も本書(ただし旧訳版)を読んだ後、他の本も読んでみたくなって本屋や図書館で見つけては読んでいきました。

もう読みつくしてしまったかも、と思っていた頃、コーネル・ウールリッチ名義で他の本も出していて、それらが創元推理文庫に収められていることを知った時は、未発掘の金鉱を発見したかのように興奮しました。 まだインターネットなどなく、作品リストも自社出版分だけで他社から別名義で出ている本についての記載もなく、ましてや他の人の感想など知る由もなかった頃の話です。

ウールリッチ作品もヒッチコック監督の『裏窓』、フランソワ・トリュフォーの『暗くなるまでこの恋を』(のちに、ハリウッドで『ポワゾン』としてアントニオ・バンデラス、アンジェリーナ・ジョリー主演でリメイク)など、多くの映画作品の原作になりましたので、そちらも気になる方はチェックしてみてください。

写真素材のピクスタ
最新情報をチェックしよう!