こんにちは、のぶゆです。
今回はこの一冊を、全力でオススメ!
あらすじ
パリの大手画商に勤めるテオは長兄フィンセントに代わり、一家の大黒柱として家族を養っていた。
兄フィンセントは無名画家であったが、創作に悩み、世間に認められない焦燥、弟に養ってもらわねば画材も買えない情け無さから酒に溺れ、孤独感に心も蝕まれてゆく。
テオと親交のあった人物として、明治の時代に海を渡り、パリで日本美術を商う林と加納が登場する。加納(シゲ)はテオの友人として、林はフィンセントに浮世絵を渡し、アルルへ赴くよう進言し、その後ゴーギャンにフィンセントとの共同生活を勧めるなど、二人を陰で支える。
アルルへ赴いたあともゴッホは創作に悩み、世間に認められることのないまま、自ら命を断つが、その後を追うようにしてテオも亡くなってしまう。
感想
今では認められているゴッホの絵も、伝統的な当時のアート界では異端だったのでしょう。兄の態度に一喜一憂するテオの姿が何とも痛々しいです。上向きになってきたと思ったら、またすぐに、酒に溺れ鬱々とした表情に戻ってしまう兄フィンセント。
読んでいても、なぜ認めてもらえないのか、とこちらが焦ってしまいます。
ゴッホがアルルで自殺を図ったそのすぐ後で、弟テオも病で亡くなります。それほどまでの強い絆が、この兄弟にはあったのでしょう。悲劇の結末に涙が溢れてきます。
解説
タイトルの「たゆたえども沈まず」はパリ市の標語です。
もともとパリはセーヌ川の水運によって発展した街でした。そして、この、揺れるけれども沈みはしない、というのは、水運を支えた船乗り達の標語だったのです。その後、パリは戦乱と革命を経験しますが、街はその都度その困難を乗り越えてきました。そして現在のパリ市民の間で、街の標語として、この言葉が広く使われるようになったのです。
ゴッホの絵画も、当時のアート界の酷評という荒波に揉まれますが、決して埋もれることなく、現代では人類の至宝として光り輝いています。自らの才能を曲げることなく貫き、それが、かえってフィンセントとテオの二人に苦悩に満ちた生涯を送らせることになりました。
本の表紙を飾るのは「星月夜」。ゴッホの代表作のひとつで、現在はニューヨーク近代美術館に所蔵されています。
素人目には、夜空がこんな風に見えるのか、と不思議な感じがします。と、同時に、この絵を描いた画家の孤独、苦悩、力強さが迫ってくるように思えます。
マハさんは、こうした絵画の裏にある、画家の傑出した才能と強烈な個性、弟テオのフィンセントに対する痛々しいまでの敬慕の想い、そこに二人の異邦人を配して、心揺さぶる物語を紡ぎ出しました。
あたかも、この絵がそう語っているのですよ、と云うように。