辻村深月『かがみの孤城』あらすじ、感想

2018年本屋大賞の受賞作を、今回は全力でおすすめします。


あらすじ

中学一年生の安西こころは、ある出来事をきっかけに学校へ行くことができなくなり、家で過ごしている。
ある日、部屋の鏡が輝いて、その光に吸い寄せられるように入っていくと、城の中にいた。

そこには、どうやら、こころと同じ様な境遇らしい中学生が、彼女を含めて7人いた。
狼の被り物をした謎の少女が、7人にある課題を出す。課題の期限は1年間。

戸惑いながらも7人は、その謎解きを通して徐々に心を通わせていく。

感想の前に・・・

個人的な事情で恐縮なのですが、実はわたし、いじめ問題に滅法弱いのです。

テレビやネットでいじめのニュースを見たりすると、

周りの大人は何やってんだよ、とか、
いじめを面白がる奴らは全員戸塚ヨットスクール行きだ、とか、
大人になるまで何とか踏ん張って乗り切ってくれー、とか

無性に、怒り、悲しみ、やるせなさが押し寄せてきて

自分でも訳が分からないほど、心が削られてしまうのです。

戸塚ヨットスクールなんて、今の人には分からないでしょうね。

さて、この本は何の前情報もなく読み始めたのですが、
最初の数ページで、あ、これはいかん、と放り出してしまいました。

学校へ行かなくなったこころに、母親があれこれと口をだすが、
こころはどうにも乗り気になれない。
あいまいに、うん、とうなずくだけだ。

あ、これはやばい。この先に僕のものすごく苦手なものがある。

しばらく経ってから覚悟を決めて、最初から読み始めました。

そして、読みだしたら、一気に読み切ってしまいました。

感想

救われました。

途中までは、7人の城での雑談に付き合うような、ゆるりとした展開です。

7人の置かれた状況や、オオカミサマの課題の謎解きも、ある程度は想像ついてました。

ところが、終盤から一気に物語が加速します。

それぞれが抱える闇が明かされ、一気に爆発してクライマックスを迎えます。

「会える!だから生きなきゃダメ!頑張って、大人になって!」

ティーンの多感な心情が火の玉となって炸裂して、闇を焼き払い、

全てのものに一筋の光をもたらします。

そう、まさに、辻村ワールド全開!

最後は、少女たちが自分の道を歩み、それぞれの場所で自分の居場所を見つけてくれていることに、泣き笑い。

でも、大人になったからなのでしょうか

一番鼻の奥がツンとなったのは、

こころの視点で描かれる、娘の不登校に狼狽え悩みながら、娘を理解し力づけようともがく母親の姿

いじめに傷つくのは大人だって同じ

大人達だって、社会の中で居心地の悪さ、子どもの頃に夢見たような立派な自分になれなかった歯がゆさ、将来への不安を抱えながら頑張っています

この本で、かつて子どもだった自分と、大人になった今でも、世の中のいじめ問題に手もなく削られてしまう弱い自分と、その両方を救ってもらえたような気分になりました。


最後に、喜多嶋先生とこころの出会いのシーンで、物語の輪がきれいに結ばれます

良かった、出会えたんだ

生きづらさを抱えて生きる、全ての世代の人に、おすすめします。